短くシンプルで単純な話だ。
しかし、その短さの中に、ドキッとさせるような描写と、クスッとさせるようなユーモアがあるところがいかにも芥川龍之介。
まるで沈没してゆくタイタニック号の乗客たちの光景を連想させる、恐ろしい修羅場の描写。
真っ赤に煮えたぎった地獄の血の海。
地獄に垂らされた一本の蜘蛛の糸に群がり這い上がってこようとする罪人たちのおどろおどろしい光景。
人間の愚かさ、醜さをこれほどまでにシンプルな形で表現した作品は無い。
そのあまりにあっさりとした結末には、ある種の爽快感さえ抱いてしまう。